DIARY 4
. 10/17 - 10/19

 宮沢章夫『稽古の日々』4


過去の日記は下をクリックしてください
D O W N
10/03 - 10/09
10/10 - 10/13
10/14 - 10/16
10/17 - 10/19
10/20 - 10/22
10/23 - 10/25
10/26 - 10/28
10/29 -10/31
11/01 - 11/03
11/04 - 11/05


最新の日記が先頭にあります。

97/10/19{Su}  朝、九時に目が覚める。どうしてもそれ以上、眠れない。四時過ぎに寝たから五時間睡眠。もっと眠らなければだめだ。これから稽古の日程がさらに厳しくなってどうにもやってゆけないだろう。昼間、『一冊の本』の原稿を書こうとするが、どうも書けない。もうひとつ、面白くならないのでとりあえずあきらめる。Webを作る。ほぼ完成。
 午後三時過ぎから稽古。千歳船橋のいつもの公共施設。ほんとは一時から取ってあったらしいが、きたろうさんがいないと、あまり意味がないので三時にした。きたろうさん、村島、朴本、欠席。きたろうさんは、夕方からの予定。
 僕が書いた部分の道具方たちの稽古。
 村島がいないので、演出助手の深見が代役。細かくダメを出しつつ、新しいやり方を試す。少しずつ形になってくる。ただ反復。直しては、反復。だんだん面白くなってきたが、村島がいないのは不安。まあ、大丈夫だろう。順番に稽古していると、原、池津、今林の順で、出番があとまわしになり、今林君などほとんど見ているだけだ。しょうがない。こういう台本なのだからしょうがない。
 六時直前になって休憩。食事にする。稽古がはじまると、食欲があまりなくなる。とくに稽古中はあまり腹が減らない。みんな食事に行ったが僕はぼんやりしていた。きたろうさんが来る。休憩から全員が戻ってきたところで、稽古再開。
『会議』の冒頭。道具方たちと男1のからみの稽古。
 だんだん、両者のバランスがよくなってきた。とくにきたろうさんの長いセリフがずいぶんよくなっている。男1が客席に向かってこれからはじまる実験について解説するのだが、男1にとってはそれが快感なのだろう。だが、気持ちよくしゃべっていると、道具方たちが邪魔をする。その呼吸がこれまではなかなかうまくゆかなかったが、きょうは急に上向いた。「男1が気持ちよく」というその部分だな。結局。きたろうさんのセリフが安定してきたからだ。
 道具方4が歌いながら入ってくる部分。村島がやるともうひとつ面白くなかったが、演出助手の深見が代役でやったら、やけに面白い。その後、ずっと深見が代役だが、村島より、どう考えても深見のほうがうまいのには困惑する。村島を集中的に稽古せねばならない。それから、さらに細かく、お茶を飲むまでをやり、そこらあたりで、短い休憩。
 できてきた。
 もっとよくなるはずだ。
 ただ、村島がいないからなあ。村島だとシャープにならないところが、深見がやるとすーっと流れるので、それは逆に、直さなければならない部分を照らし出したということでもある。村島に、できるだろうか。できるまで稽古しなければ、彼自身にとっても、この舞台に参加した意味がない。
 このあとの場面の稽古で、ようやく今林君が中心になる。で、もう八時過ぎだ。彼は五時間、何をしていたのだろう。考えてみると、演出していたり、稽古していれば、僕も出ている役者も五時間などあっというまだが、見ているほうはたまらないと思う。そういうことも気になって仕方がない。
 10時近くまで稽古。
 少し中途半端なところで終わる。演出助手の秋本と深見が片づけをするのを待って外に出る。家に電話すると、日本シリーズは同点で、まだ試合が続いているという。
 明日から二日、きたろうさんが休みだ。戸田君も仕事らしい。
 どこをどう稽古したらいいか、考えなくてはいけない。ほんとは明日も一時からの予定だったが、そんなわけで五時にした。少し不安になる。

to 10/20



 
97/10/18{Sa}

 稽古は六時からなので、午前中から夕方まで、やっておかなければならないことをいくつか片づけることにした。Webの制作。原稿。忙しいったらない。困った困ったと思いながらも、作っていると面白いので、Web制作はつい夢中になるし、いろいろアイデアも出てくる。
 しかし、Webも、もうひとつ何か足りない気もしており、少し余裕が出てきたら考えようと思う。といっても、べつにJavaを使おうとか、そういったことではない。技術的にすぐれていても、魅力に欠けるところはたくさんある。最近、ごくシンプルで魅力的なWebを見つけた。ああいうのがいいな。
 五時過ぎに家を出て、自転車で、駒沢の稽古場まで行く。
 欠席者なし。きたろうさん、どうやら、稽古に飽きてきたようだ。そういうときのきたろうさんのダメさ加減は、昔から何も変わっていない。進歩がないというか、成長しないというか。僕は慣れてるので、べつにいいが、ほかの役者にあたえる影響のことを考えると心配だ。やる気、なくすものな、そういう時のきたろうさんがそばにいると。
 だが、役者は、どんなにだめな人間でも、面白ければいい。だめなほど、魅力的である場合もかなりある。でたらめな人がほとんどだろう、いい役者なんてものは。
 僕が書き足した冒頭のあたりを稽古。道具方たちがうまくゆかない。もうひとつシャープじゃない。だが、シャープなだけではなく、ふっとした軽さも要求される。細かくやってゆかないとだめだ。きたろうさんの部分を稽古し宮川君や戸田君に何か言い、そのあと、佐伯、小沢に対すると、ふと、なんでこんな素人がここにいるんだろうという気分になっていけない。村島は下手だが、それでもなにか身体から出てくるものがあるのは、若くても舞台以外での経験の差か。スチャダラパーもそうだったが、表現者として、身体から出てくるものが感じられるかどうか、それを身につけるのはたいへんなことだ。
 道具方はもっと細かくやってゆかなければいけない。
 朴本が演じる女3の場面をやってみる。いろいろ試す。わからない。ここはどうしたらいいのかまるでわからない。朴本にいろんな歩き方をさせてみて、とりあえずきょうのところは早足で歩くことにした。それはそれで面白いが、やっぱりちがうような気がしてならない。面白くする手はあれこれあるけど、それプラス、なにか。朴本をこの役にあてたことから出てくるものはなんだろう。
 ここが最大の難所だ。
 技術とはまったく異なるものだ。
 なんだろう。わからない。
 その後、ラストあたりを稽古する。少しずつだができてきている。最初に細かく細かく作ってゆけば、あとで楽だ。夏休みの宿題のような気分だ。
 十時少し前に終了。
 自転車で帰る。少し寒くなってきた。


to 10/19


 

97/10/17{Fr}

 朝、四時頃、ようやく『鳩よ!』の原稿が書けた。午後から稽古なのですぐに寝ようと思ったが、寝付かれない。『鳩よ!』に原稿をFAXで送る。しばらく新聞に目を通し、『批評空間』など読んでいたがいっこうに眠くならない。仕方がないのでほんとうに眠くなるまで待つ。六時半頃、ようやく眠ったのだと思う。
 九時に目が覚めた。
 これでは稽古に差し支えると思うのでもう一度、寝ようとしたが、やっぱり眠れない。コンピュータを起動してメールなど書く。また眠くなるかもしれない。そうしたら一時間でも寝ておこうと思ったが、結局、そのまま、稽古に行く。
 下北沢から二〇分ほど歩いた場所の公共施設で稽古。きたろうさん、朴本、休み。書き足したぶんの、冒頭の所から、本編の出だしまでを稽古。道具方たちのリズムが悪い。一から、ここは、こうして、このセリフは、間を空けないで、など伝えるが、それくらい自分たちで面白くなる方法を考えたらどうだって気にもなるが、役者がなにかすると、それだめだよ、と、頭から否定してしまう僕の演出がいけないのかもしれない。
 ただそれも、面白ければ、何も言わないはずだが、否定のときは強い調子になるので、比べれば、何もしないにこしたことはないと、役者は臆病になるのではないか。
 ずいぶん以前、私の作品、『砂の国の遠い声』について、ニフティの演劇フォーラムで批評している人の文章を読んだ。「みんな演技が淡々としているが、一人、手塚とおるだけがはじけていてさすが」といった意味のことが書いてあって、そりゃ、役者たちが悪いんじゃない、僕がそう演出したのだから悪いのは俺だ、いや、悪いとは思ってないけど、とひとこと役者のために言いたかった。
 はじけてたり、熱演したりが、いいということになっているのだろうか、演劇は。
 そんなことを考えつつ、稽古は淡々と進む。
 さらに、男4が、男1を殺すまでを稽古する。演出助手の深見がきたろうさんの代役。少しづつ、男4の芝居に変化をつけ、一本調子にならないようにする。男4はいかにして、その場にいる者らを巻き込むかだ。形で巻き込まれてもしょうがない。巻き込まれたって芝居をしてもだめだ。男4が巻き込まなければいけない。そのためのスピードと、相手に有無を言わせない説得力が必要になる。しかも、それがわけのわからない説得力で、グルーチョ・マルクス的なるものだったり、きょう気がついたのは、つまり、何とか商法のインチキなセールスマンのやり口だ。
 男4を演じる今林君が、だんだん、それに近づいてきた。しめしめ。
 私が書き足した、最後の部分をやる。ほとんど稽古していないところだ。きたろうさんの変わりに深見で稽古。面白くなりそうだ。カーテンコールの音楽の中、全員でビールを飲む情景をやろうと思うが、小道具係から、つまみは何にしましょうと質問が出、「やはり、豆だろう」と、内容と関連するつまみの種類を口にしたところ、村島君が「うち、実家が豆屋なんです。豆、送ってもらいましょうか」と意外なことをいう。こういうことがあると、芝居をやっているのがほんとに楽しい。
 五時よりかなり前に稽古終了。
 家に帰って、月曜日以来、まるで聞いていなかった留守番電話を再生。
 七件入っていた。『鳩よ!』の新井さん。『鳩よ!』の新井さん。『一冊の本』の大槻さん。『鳩よ!』の新井さん。『鳩よ!』の新井さん。『一冊の本』の大槻さん、『鳩よ!』の新井さん。なにか、リズムを刻むように、この二人が原稿の催促をしている。まったく申し訳ない。だが、今月はあと、『一冊の本』だけになった。これさえ書ければ、稽古に集中できる。と思っていたら、なにか大人計画の本を太田出版が出すとかで、そのなかの短い原稿を頼まれていたのだった。忘れていた。完全に忘れていたのだ。きょう制作から、何度目かの確認。書かなくては。
 いよいよ眠い。ところが、晩飯が、新宿の高島屋で買ったというアジャンタのカレーだったので、眠気も忘れて食べる。私は三度の飯よりアジャンタのカレーが好きだ。辛い。ほんとに辛い。異常に辛い。辛さで耳の中がかゆくなり、腹の中が熱いままとりあえず寝た。
 目が覚めたのは夜11時ごろ。
 桜井君から音楽の件で電話。全然、目が覚めず、思考能力がなにもないのであらためてこちらから電話すると言っていったん切る。一時間後、ようやく電話。音楽の件で打ち合わせ。桜井君のプランを聞く。ふむふむ。男2が「ダンヒルです」というセリフのあと、音楽を入れようということになっていて、それはやはり、火曜サスペンス風がくだらないだろうということになる。こういうものは、稽古場であわせてみないとわからないので難しい。
 カレーを食べてすぐに眠るという暴挙のせいか胃の具合が悪い。
 これから稽古の日程がさらに厳しくなる。Webの更新はできるだろうか。


to 10/18


 



B A C K
U P
P E R F O R M E R