DIARY 3
. 10/14 - 10/16

 宮沢章夫『稽古の日々』3


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最新の日記が先頭にあります。

97/10/16(Th)..  朝、早い時間に目が覚めメールの確認などしているところへ、筑摩書房の打越さんから電話。昨夜、ゲラをFAXでもらっていたのでその確認。べつに直すところは何もない。その旨、伝える。筑摩書房の方が編集をしている、『本とコンピュータ』に原稿を書くようにとのこと。長めの評論だそうだ。よし、気合いを入れて書こう。もちろん、ほかの仕事に気合いが入っていないというわけではない。打越さん、鮎川誠の『DOS/Vブルース』を読んだという。面白かったというので、しばらくその話になる。ほんとに面白い本だ。鮎川さんの人柄が出ている。読み物としてもいい。Mac関係者も読んでも大丈夫だろう。コンピュータに疎い打越さんまで面白いというのだから一般性があるということだ。
 稽古は休み。
 どうも風邪気味だ。稽古が休みというので緊張感がなくなったせいではないか。近くの福室庵から鍋焼きうどんを取り、食べる。風邪には鍋焼きうどんだ。汗をかいて気持ちがいい。
 急に眠くなったので三時間ほど睡眠。
 目が覚めると風邪はすっかり治っていた。ぼんやりした頭で、『オルタカルチャー日本版』をぱらぱら拾い読み(きのうの日記の「オルトカルチャー」は間違い)。作家の阿部和重君が取り上げられていた。よろしい。中上健次の項は読ませる。「浜の大魔人」という項目があり笑った。横浜ベイスターズの佐々木のことだ。さらにページをくくっていたら、自分の名前の項目に驚いた。しかも、やけに詳しい。誰が書いたのだろう。こんなに詳しいのは、中山亜弓さんぐらいしかいないだろうと調べたら、案の定、そうだ。だが、私に関する次の記述は気になる。
「渋谷系ファッションと伸びゆく長髪」
 ま、いいか。ここのURLがちゃんと記載されているので驚いた。しかし、先を越された気持ちになる。このWebで「オルタナティブ・ニッポン」というページを作りおなじようなことをしようと思っていたからだ。みんなにも声をかけていたが、こちらには文章を書ける者の数があまりに少ない。戦略を変えよう。
 三時過ぎに家を出て、銀座に行く。大学時代の友人で、ずっとロンドンに行っていた塩見奈々から美術展のお知らせが来ており、それを見るためだ。
『Document & ART 展』
 10数人の作家、ないしはグループが参加している。奈々ちゃんの作品はとても繊細だ。来年の六月、林巻子さんと何か作ろうと思っている。その舞台のとき、チラシに使わせてもらいたいと考える。「奈々ちゃん」と大学時代の呼び方をついしてしまうが、彼女ももう四〇歳を過ぎているはず。うーん、悲しい。高校生と協力して映像作品を作った人がおり、制作過程そのものを作品として展示している。見ていたら、なにか、ぴぴっと来るものがあり、なんだか刺激された。刺激的な作品がいくつか。だめなものがいくつか。印象に残ったものもいくつか。来てよかった。
 喫茶店のWESTで休憩。店では最近、モンゴルに行ったらしい女の人が大きな声でその話を友人にしている。エアコンの風邪の直撃にあい風邪が再発しそうだ。すぐに店を出る。
 家に戻ると、新潮社の比較的声の低い編集者、中島君からFAXが来ていた。『わからなくなってきました』また増刷が決まったとある。4000部。前回増刷の倍になっていた。こうなったらMacだ。Macを買うしかないじゃないか。もっと快適にWebを作ることができる。
 だが、しばらくは舞台だ。舞台が終わってからになるな。きっと。

to 10/17


97/10/15(We)..  昨夜はいったん眠ってから深夜に目が覚め、Webの更新作業をした。その後、『鳩よ!』の原稿を書こうとしてなかなか進まず、なんどか書いては、面白くないので、また最初からやり直しと、繰り返す。
 気晴らしに本を読む。後藤明生さんの『小説は何処から来たか』のプロローグ。柄谷行人『日本近代文学の起源』『反文学論』を引用からはじまり、ロシア文学を素描しつつ、それが日本の近代文学にどんな影響を与え、ゆがんで伝えられたかを分析してゆく。簡単にまとめれば、「関係」ではなく「内面」へ、後藤さんの言葉でいえば、「ペテルブルグ幻想喜劇派」ではなく、「田園派、抒情派、人生派、人道派」へと日本の近代文学は向かったということで、それは、漱石や鴎外の方向ではなく、国木田独歩に行ってしまったということだが、ははあ、なるほど、日本の近代演劇もきっとおなじなのだろうと、大いに納得し、そんなことを考えていたら朝になってしまった。
 一時から駒沢の公共施設で稽古だ。
 地図で確認し、この道をこう行けばよいと決めて稽古場まで自転車で向かうが、稽古場に近づいて細い道を進むと、先は階段だった。地図ではわからなかったところだ。仕方がないので自転車を抱えて階段をのぼる。なさけない。
 きょうは全員が来ている。冒頭から順を追って稽古。きたろうさん、台本を持たずに稽古するのはいいが、ところどころ忘れていたり、不正確なので、なんだかまどろっこしい。道具方たちが机を運び、きたろうさんが客席に向かって話し始めるという、この冒頭が、びしっとできあがったら、すごく気持ちがいいのにと思いつつ、それができるのはいつになるのだろう。だが、きっとできる。
 短くやっては止め、気になったところを直し、そうして少しづつ進む。
 原さんがやたら顔で説明するのが気になる。驚いたことがあったりすると、そういう顔をしている。なんてわかりやすいんだろうと思って、そのことをどう注意すれば理解してもらえるかと考えていたら、きたろうさんが、いきなり原さんに、「健太郎、その顔はやめろ」と言ったので笑った。それで注意しなくてもすんだ。
 そういえば、戸田君は無表情だ。なにがあっても表情が変わらない。それでも表現されている。佐伯や村島君も説明的な顔をする。やはりきたろうさんに、「佐伯、そんな顔するなよ」と言われて、しゅんとしていた。笑った。きたろうさんには、たいへん助かる。で、観察していると、きたろうさん、気に入った人にはそうしたきつい表現でアドバイスしているのだとわかる。そういう人だ。
 四時になって、宮川君が仕事で早退。
 で、女3が通り過ぎる場面を何度かやる。もっとよくなりそうな気がするが、なにかまだ足りない。何度かやっているうちに、いろいろ思いつき、それを試してみる。それはそれで、いいが、いや、根本的になにかちがうような気がする。もっと考えなければだめだし、もっと稽古しなければだめなのだろう。
 男1のライターの落とし方を考える。そこがどうも気持ちが悪い。ライターを落とし、そこから二歩すすみ、少し間を取る。全員、静止。それから男1であるきたろうさんが、ようやく振り返る。それでやってみる。このほうがなにか感じが出る。
 宮川君の代役を佐伯がやって後半を流す。今林君が一本調子だ。気になる。もう少し、状況と言葉によって色合いを変化させられないだろうか。
 五時と同時に、施設の係りの人が、「はい、終わりですよ」と言いに来るのでそこで終了。やたら熱心な仕事ぶりだ。終わってから、美術や衣装の打ち合わせを、渋谷でするのだということを忘れていた。忘れて自転車で来てしまった。渋谷まで自転車で行くのはいくらなんでも大変ではないか。とりあえず三軒茶屋まで行き、自転車を路上に置いて地下鉄に乗ることにした。センター街にあるルノアールで打ち合わせ。どうしてこんな場所なんだ。美術の加藤さん、小道具の武藤、舞台監督の橋本ら。ルノアールではやはりコアップガラナだった。
 終わってから旭屋で本を見る。
『オルトカルチャー日本版』というやつが出ていた。やっぱりこういうものが出るのだなあと思いつつ、中身を見ずに買う。ほかに、『批評空間』。あらためて地下鉄で三軒茶屋に戻りそこから自転車。もうすっかり暗くなっていた。

to 10/16


 
97/10/14(Tu)..  気がついたら、もう十二時半になっていた。あわてて家を出、自転車で上町まで走りそこからタクシーで深沢の公共施設まで行く。目が覚めたのが12時ちかくだったからこれはしょうがない。昨夜は、というか、今朝は朝の五時までシアターガイドの原稿を書いていた。書いている途中、どうしても引用したい資料が見つからず、かなり長い時間、深夜にもかかわらずがたがた探す。結局、見つからなかった。
 原稿は無事に書けた。
 稽古は一時開始。きたろうさん、朴本、欠席。
 はじめ、きたろうさんの代役を深見がやって、きのうの続き。だいたい形にはなってきたが、まだまだだ。なんというか、クオリティに欠ける。それから、男3の登場以降を細かくチェックしながら進める。男3がライターをポケットから出し、なぜか何本もポケットに入っているという芝居。原さん、どうもそれを軽くできない。ずっと演劇をやってきた方だから仕方がない。で、その後、椅子に腰をおろし、周囲でなにか議論になっているとき、ふっと漏らすセリフがやたらおかしい瞬間があり、みんなで笑ったのだが、原さん、よくわからないという顔をしている。何が面白いのか理解できていないようだ。これはだめだ。つまりそれは、「およびでない」というやつだが、おそらく反復はできないだろう。案の定、もう一度、やってみたら面白くない。原さんに関しては、これからそういうことを細かく演出しよう。こうしろという形を押しつけるのではなく、考え方から変えてゆかなければいけない。なにかこの人は、面白くなる可能性を感じる。
 池津がかなりよくなってきた。最初に感じた、上手にやろうとしているいやらしさがなくなりやけに面白い。村島も急激にうまくなっている。これは変だ。うまくなって面白くなくなるのはいやだが、徐々に慣れてきたということか。宮川君がどうもだめだ。勢いのようなものだけでやろうとしているふしがある。細かくトーンを使いわけ、その場、その場で状況に対応するといった感じがしない。つまり、雑ということだ。僕の一番、嫌いな状態だ。宮川君、忙しいのでちょっとそのへん、楽なところに流れているのではないかと感じる。そういえば、きのう、宮川君ときたろうさんについて、「いいかげんな気持ちで立っているのがたいへんよろしい」と、少しほめたからいけないのかもしれない。
 ほめるのも善し悪しである。
 さらに稽古をつづけていたら、四時を過ぎて、急になにか、集中力のようなものが欠けてきた。これはいけない。疲れたのか。細かく稽古をつづけ、それから、最後に、男3の登場から、全員でお茶を飲むところまで流す。全然、だめだ。
 五時少し前に終了。
 演出助手たちの片づけを待って外に出るとまだ外は明るくて気持ちがいい。秋本、深見、制作の永井、舞台監督助手の衛藤の四人はバスで渋谷に向かった。僕はタクシーを拾って上町に行く。タクシーのなかで稽古のことを考える。
 久しぶりに家で食事。
 食事がすんだら眠くなってきた。
 きょうこそは、『鳩よ!』の原稿を書かなければ。少し文章を書いたら、Windowsのほうで使っている、WZエディターの調子が悪い。カーソル移動がやけに遅い。しゅーって感じの移動がない。不快だ。まるで、Macで文章を書いているような歯がゆさだ。どこが悪いのかわからない。だから、寝る。

to 10/15

 


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