Aug.31 「屋根の上の犬」

■引越の準備は着々と進んでいる。
■といっても、わたしはなにもしていないし、腰があぶないし、ただ原稿を書いているわけだが、梱包材を買う仕事を手伝うため外に出る。このへんでいちばん近い梱包材店は下高井戸にあるという。自転車で走る久しぶりの世田谷。新しい家が建っている。雰囲気のいい日本家屋が壊されマンションになってゆく。変化はしょうがない。変化するのが町。以前から不思議だった屋根の上で飼われている犬は、相変わらず屋根の上にいる。梱包材店は住宅街のなかにある。近くを世田谷線が走っている。引越したら世田谷線に乗る機会もなくなるだろう。
■ところで引越先はADSLにしようと思うが詳しいことがよくわからない。まずなにをどうすればいいのだ。NTTに連絡なのか? それ専用のルーターとかそういったあれも必要なのだろうか。誰か教えてほしい。以前、『コンピュータで書くということ』を書き続けていたとき、なにかわからないことがあるとすぐに教えてくれる方たちがいてほんとうにうれしかった。まだ読んでいてくれればいいが。
■『月の教室』の戯曲を直していた。全体が四つのファイルに分割してあるので、それをアタマから直していると、後半、四分の一ぐらいがないと判明。もしかしたら最後のあたり、五番目とか六番目のファイルが存在するのかもしれない。つまり、後半部分のテキストデータは掛川の家のコンピュータのなかだ。あわてる。掛川に取りにゆかねばならんのか。いまごろなんで気がついたんだ。白水社のW君に電話し締め切りを延ばしてもらう。理由を話すと、「送ってもらうわけには」とのこと。データはコンピュータのなかだ。うちの親がコンピュータをさわれるわけがないではないか。
■『草の上のキューブ』という去年発表した小説は、ハッキングが話の中心になっている。コンピュータが好きな人にしか理解されなかった。でもこりずにときどき、ハッカーやクラッカーたちのアングラサイトに立ち寄って情報を仕入れる。用心深く、「ここクリック」なんてものにはめったに手を出さないでいたが、ぼんやりしていたせいか、ついクリックしてしまった。メーラーを勝手に立ち上げどこかにメールを送ろうとする。閉じても閉じても立ち上がるメーラー。よく知られたメールアドレスを奪う例のあれだ。で、わかったのはメインのメーラーとしてコンピュータに登録しているメーラーが立ち上がることだが、幸いにも僕はメインのメーラーをほとんど使っていない。よかった。
■すごい人たちがいるんだな。もっと調べてまたいつかなにかに書こう。
■ワークショップ受講者たちから次々メールが届く。うれしい。そういえば、このあいだ東京オペラシティーで美術展を見たとき、以前僕のワークショップに来ていた者が会場のバイトをしていた。ものすごい数のワークショップをやっている。どこにいってもかつてのワークショップ受講者がバイトしていたらちょっといやだが、その件について、野牛男(のぎゅお)はどう思うだろうか。
(1:29 Sep.1 2001)

Aug.30 「スイッチを入れる」

■義妹のコンピュータの調子が悪いという。直しに出かけた。モデムがつながらずメールチェックができなくて困っているそうだ。行って、一分後、モデムのスイッチを入れたら直った。あのねえ、電気屋のコントじゃないんだから。
■映像コース一年のY君からまたメール。『サーチエンジン・システムクラッシュ』と、タブッキの『供述によるとペレイラは……』を読んだとのこと。細かい読みをしていることにおどろく。『供述によると…』は、題名が示すようにペレイラが語ったのだろう言葉を、何者かが記述しているという方法で語られる。「だからペレイラが言いたくなかったこと、わからなかったことはそのまま、『ペレイラは言う必要がないと供述している。』とか、『ペレイラは、わからなかったと供述している。』とか書かれていて、その部分にこちらが自由に想像するスペースが作り出されているのですね」とY君のメールにある。さらに僕の小説についても言及があり、励まされた。書かなければ。
■そういえば、昨夜ずいぶん遅い時間に電話。こんな時間になんだいと出ると、僕の舞台によく出ている笠木だった。まったくこんな夜中に迷惑な電話だよ。迷惑だが久しぶりに話をして面白かった。いまは結婚して千葉県の船橋市に住んでいるらしい。もう東京には出てこられないし、ちょっと芝居でも見ようとしても東京には夜行列車で二日かかるという。「すっかり土地の女になりました」と語り出す言葉には、どこか海のにおいがあった。二人目の子供もできたとうれしそうだが、いくら近鉄バッファローズのファンだからって下の子供の名前が「野牛男(のぎゅお)」というのはいったいなんのつもりだ。
■どこまでほんとうでどこからうそなのか自分でもよくわからない。
■誰かを笑わせたいだけだ。どこかに疲れている人はいないだろうか。
■『月の教室』の戯曲を直す作業。合間、BSで放送されている野球中継。ヤクルト快勝。神宮に行けばよかった。とはいうものの、戯曲の直し、あしたまで。それどころではない。
■東京はやけに涼しい。
(23:29 Aug.30 2001)



 何日分か削除


Aug.22 「外に出ると晴れていた」

■今年の夏、映像コース一年生のY君に誘われて甲子園に行ったのは8月8日。つまり高校野球の初日。地元だという日大三高をY君は応援し、つきあいもあったし、東京だし、僕も応援するうち心情的にずっと動向が気になっていたが、その日大三高が優勝したので驚いた。これもなにかの縁である。Y君とバンドをやろうという気持ちが高まったのだった。Y君から教えられたマイス・パレードのCDをあした買おう。

■ワークショップ二日目。「歩く」について。35人もいると、ちょっとした発表でも時間がかかってしょうがない。あと、自分がまさに教師のように振る舞っていると感じて気持ちが悪い。ワークショップをやりすぎではないか。あるいは大学。でも頼まれるとつい引き受けてしまうし、見知らぬ誰かと出会うことの面白さはどうしたってある。となると、「出会い系ワークショップ」か。なにかを喚起してくれるどこかの誰か。どこにいるだろう。そうそう会えるものではないが。
■夕方、外に出ると晴れていた。気持ちがいい。
■書くのを忘れていたが、東京に戻ってきたら一年生、二年生の最終レポートが研究室から宅急便で届いていたのだった。「表現方法自由」と告知したらほんとうに自由で、ビデオもあれば、よく理解できないフィギュアがあったり、クール宅急便で送られたものもあって開けてみれば食べることのできないケーキだった。なんだそれは。面白かったが。
■やらなければいけないことはまだ無数にあるよ。途方もない遠い道のり。ここからでは見えない前方に向かってする跳躍。とりあえず、せっせと小説を読み、そして書く。
(3:05 Aug.22 2001)

Aug.21 「またワークショップ」

■東京は雨。というか全国的。台風は東京を直撃するのだろうか。
■午後から演劇ぶっくのワークショップ。参加者は35名。うち何人か欠席。大阪のYさんがいる。沖縄のMさんがいる。平均して年齢は高い。夏休みを利用した演ぶのワークショップをはじめてやったときは高校生が多かったが去年からほとんどいないのはなにか理由があるのだろうか。ワークショップにしろ、学校の授業にしろ、このところやることがほぼ同じなので、僕自身、飽きてきた。新しいことを考えようと思う。
■なぜか疲れた。帰りの電車は混んでいる。人が多い。四条烏丸から家まで歩くにはけっこう距離があるがさほど疲れない。豪徳寺の駅から家まで歩くのはなぜこんなに疲れるのだろう。
■終えて家に戻るとひどく眠い。引越し前の東京の家は段ボールが積み上がって混乱。なにか穴蔵の状況である。
(2:21 Aug.21 2001)

Aug.20 「世田谷へ」

■東京に戻ってきたのだった。
■お盆休みはまだ明けていなかったのか、朝、新幹線に乗ろうとするとかなり席が埋まっている。京都駅に着いてから一時間後のひかりに乗る。計算が狂った。三時までに恵比寿に到着しなければならない。紀伊国屋書店が出しているPR誌で作家の保坂和志さんとの対談。恵比寿から明治通りを渋谷方向に少し歩いた位置にある紀伊国屋書店の本社ビルの八階。カメラマンの方がかつて、故・加藤芳一さんと同じ会社にいたというのでその話になって、加藤さんが亡くなられたときのことを思い出す。少ししんみりする。テンションがあがらなくなってしまった。
■気を取り直して対談。とても面白かった。保坂さんの『世界を肯定する哲学』を、対談があるというので二度読んだわけだが、いろいろ触発されいい仕事だった。なにかタイミングがいいという気がし、仕事とはそういうものだとつくづく思う。
■終わってから西武新宿線都立家政へ向かい鍼の治療を受ける。身体のメンテナンス。全身が鍼でほぐれてゆく。とろーんとした感じにまたなった。
■ようやく世田谷へ。引越し前のわが家は段ボール箱が積み上がりたいへんなことになっていた。
■二ヶ月半ぶりの東京。またべつの視線でながめてみようと思った。
(1:51 Aug.21 2001)